目標は「ムチ」ではなく「道しるべ」──自分を叱る前に、上司役の自分と話し合おう
ある日のカウンセリングで、こんな相談を受けました。
「やりたいことがたくさんあるのに、全然進まなくて ―― 結局わたしはダメな人間なんです」
話を詳しく聞くと、彼女は 1 年でこなすには到底無理のある “5 年分の To-Do リスト” を抱えていました。計画が壮大すぎるあまり、どこから手を付ければいいのか分からず、手を付けられない自分を責める悪循環に陥っていたのです。
「4 時間キャパなのに 20 時間分の仕事を渡されたら?」
イメージしやすいよう、会社の上司と部下に置き換えてみましょう。
部下は 1 日に 4 時間ぶんのタスクがこなせる人です。ところが上司は、新規提案も資料作りも含め、総計 20 時間分 の仕事を「今日中に終わらせてね」と言い放ちます。結果は目に見えています。どれだけ頑張っても終わりません。けれどもその部下が「やっぱり自分は能力不足だ」と肩を落としていたら、あなたはどう声をかけるでしょうか。多くの人は「無理な量を振った上司のほうが問題だ」と感じるはずです。
けれど、私たち自身の中にも同じ構図が潜んでいます。
“無茶ぶり上司” と “自責な部下” が、ひとつの身体でせめぎ合っているのです。
苦い体験:宣言した瞬間にしぼんでしまったブログ計画
苦い体験:欲ばり完璧主義が芽を踏みつけた話
思い返せば、私の“無理数上司”はいつも 「せっかくなら全部やろう!」 と囁いていました。たとえば英語の勉強を始めた瞬間、「そうだ、日本語も同時にマスターしよう」と脇道が伸びる。韓国語ブログを書き始めれば、「どうせなら日本語ブログも同時開設だ」と欲張る――そんな具合です。
最初はやる気満々でタスクリストを膨らませますが、数週間後には現実が追いつかずタスクの山に埋没。しかも 「成果が数値化できない目標」 が多かったため、自分がどこまで進んだのか手応えもつかめません。
結果として小さな芽さえ定着しないまま、私自身の完璧主義と欲望がその芽を踏みつけてしまいました。
目標を現実サイズに調整するコツ
では、どうすれば無理なく前に進めるのでしょう。まずは自分の「今のキャパシティ」を正直に把握することから始めてみてください。1 日の可処分時間は? 体力は? 維持したい生活リズムは? それらを数字と言葉で可視化したうえで、「110~120%の背伸び」 程度の目標を設定します。さらに大きなゴールは、細かいタスクに分けて日常に落とし込みましょう。
私の場合、大きい目標はいくつかの段階に分けて、完成度は 20%でもいい。まずは世に出してみる。そこから改善点を拾い、次の 20%を重ねる。すると不思議なことに、やる気は削れず、むしろ小さな達成感が雪だるま式に大きくなっていきました。
内なる上司を“伴走者”に変える
計画を小さく区切っても、内なる上司が「もっと速く!」とムチを振るう瞬間があります。そんなときは、「このペースなら〇日で終わるから大丈夫」「まず 5 時間分やって、終わったら再評価する」と、自分の中で“交渉”してみてください。怖い上司を、冷静に数字で説得し、信頼できるマネージャーへと育てていくイメージです。
最後に――あなたは怠け者ではない
目標達成がうまくいかないとき、「自分には意志がない」と決めつけるのは簡単です。
でも本当は、自分を必要以上に追い詰める設計図 を持っていただけかもしれません。今日からは、無茶ぶり上司ではなく、賢いプランナー として自分をマネジメントしてみませんか。
目標はムチではなく、進むべき方向を示す地図。
地図が現実と合っていれば、あなたの歩みは必ずゴールへ続いていきます。